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よく,「ベイトリールよりもスピニングリールの方がドラグの性能が良い」を言われる事が多いと思う。

例えば大物がヒットして突然強くラインが引っ張られたとき,ベイトリールの場合はドラグをガチガチに締めこんでフルロック状態になっていたとしても,クラッチを切ってスプールを指で押さえる事でドラグの代わりができるので何とかなると思う(強く引かれた状態だとクラッチが切れない可能性もありますが)。ところがスピニングの場合は,そういった操作ができない。

また,ベイトリールが太いラインを使う事が多いのに対してスピニングリールは細いラインを使用する事も多く,肝心な時にドラグが絶妙に作動してくれないとラインが切れてしまう事があるだろう。

なので,高価なスピニングリールのドラグが高性能であるというのは,当然の事だと思う。

ベイトリールの場合は何とかなる事が多いとしても高性能なドラグが全く不要な訳ではなく,個人的には高性能なドラグがあった方はいいとは思う。どうしてベイトリールはスピニングよりドラグの評価が低いのか?それぞれのリール構造や用途から推測しながら考えてみた。

実際の理由はいろいろとあるんだろうけど私の脳みそで分析できる部分として,今回は「ドラグ機構の滑る量における,ライン放出量の違い」と,「ドラグワッシャーに掛かる力の違い」をクローズアップして考えてみる。

ベイトリールとスピニングリール

今回の検証に使うのは,ベイトリールが「シマノ 05'メタニウムXT」,スピニングは「シマノ レアニウムCI4 2500S」で考えてみようと思う。

ベイトもスピニングも最高級のリール同士で比較したいところだが,私が持っているタックルの中ではこの2つが最高級となるので,その辺は勘弁していただきたい・・・。

そして今回の話は,バス釣りやロックフィッシュ釣りなどで良く使うクラスのリールを比較した場合の話にしようと思う。

レアニウムCI4 2500Sのスプール径

まずは,ラインを巻いた状態でのスプール径を比較してみる。

レアニウムのスプール径は,だいたい44mmくらい。

'05メタニウムXTのスプール径

メタニウムXTのスプール径は,だいたい31mmだ。

その他のデータとしてはベイトリールではダイワのアルファスが約34mm,スピニングだとシマノの安物(1000番クラス)で37mm。

他のリールもいろいろ調べてみたが,バス釣りなんかで良く使うクラスのリール同士で比べた場合,ベイトリールの方がスプール径が小さい傾向がある。

リールのスプールに発生する回転力は,ラインを引いたときの力×スプール径

例えば魚が掛かってラインが引っ張られたときに,リールのスプールを回転させるような力が発生するが,このときのスプールに発生する回転力(トルク)は,

ラインを引っ張る力 × スプール半径

で決まってくると思う。

ちなみにここでいう「スプール半径」とはラインを巻いたときのライン部分でできる半径の事で,これは糸巻き量によって変わる。

この計算式で考えて,魚が2kgの力でラインを引いたとして考えたとき(ロッドは無視してリールに掛かった力で考えた場合)の各リールのスプールに発生する回転力(トルク)を計算してみると,

  • レアニウムCI4 2500S : 2kg × 44mm = 88 kg・mm
  • メタニウムXT : 2kg × 31mm = 62 kg・mm

となり,スピニングの方が大きい力で回転しようとしている事になる。

ただし実際にはスピニングリールはラインを直角に曲げて巻かれるリールであるため,ラインを曲げる部分でスプールを回そうとする力は弱められていると思う。弱められる力が計算できれば最高だし,この部分を無視して語るのは不適切かもしれないが,私の脳みそでは解析ができないので省略させていただく。

とりあえず今回は,ラインが引っ張られたときのスプールの回転力(トルク)は,レアニウムもメタニウムXTも,だいたい同じ位なんじゃないかと推測して話を進めていく。

レアニウムCI4のスプール周辺

次はドラグの部品配置について考えていく。

スピニングリールの場合はスプールの回転を制限するための「ドラグ」はスプール部分に取り付けられており,スプールにドラグワッシャーを押し付ける事で,スプールの滑り量をコントロールしていく。

05メタニウムXTのメインギヤからスプールまでの動力伝達経路

それに対してベイトリールの場合は,ドラグはスプールには付いていない。

「ベイトリールの構造:ドラグ作動の仕組み」に詳しく書いたように,メインギヤの両面を挟み込むようにしてドラグが装着されている。

スピニングがスプールを押さえる構造に対し,ベイトはメインギヤを押さえる構造・・・。ここに決定的な構造上の違いがある。

05メタニウムXTの内部構造

この周辺の構造についてはベイトリールの構造「スプールが回転する仕組みとギヤ比」にも詳しく書いたが,ハンドルを1回転させたときはメインギヤも1回転して,ギヤ比の関係でピニオンギヤは約 6.2倍回転するため(このリールの場合),ハンドル1回転でスプールは約 6.2回転する事が分かっている。

そしてハンドルを回す時とは逆に魚が掛かってラインが強く引っ張られた場合は,スプールがピニオンギヤを回し,ピニオンギヤがメインギヤを回そうとするので,動力の伝達経路が逆になる。

ラインが引っ張られて, スプール → ピニオンギヤ → メインギヤ の順に動力が伝わっていくときを考えると,

  • スプールが1回転でピニオンギヤも1回転
  • ギヤ比の関係で,メインギヤは約 6.2分の1回転

となる。

スプール1周分のラインが出たときで考えると,スピニングはドラグ部分も1周するのに対して,ベイトの場合はギヤ比によって減速された量しか動かない事が分かる。

例えばドラグ1周分の滑りが発生した場合を考えてみると,スピニングの場合はスプール円周分のラインが出るだけ。計算してみると,

直径 × 円周率 = 円周 なので,

44mm × 3.14 = 138.16mm

なのに対し,ベイトの場合は 「スプール円周 × ギヤ比」 分のラインが出てしまうため,

31mm × 3.14 × 6.2 = 603.508mm

ベイトの方が大量(約4.3倍)にラインが出てしまうという事が分かる。

この事から,ベイトの場合はスピニングよりも超低速で動くドラグが必要になってくるのではないかと思う。

ベイトリールのギヤ周辺

次にドラグ部分に掛かるトルク(回転力)を考えてみる。
ラインが引っ張られているときはピニオンギヤがメインギヤを回そうとしているので,ピニオンギヤを入力側,メインギヤを出力側として考えた場合,

ピニオンギヤ(入力側)のトルク × ギヤ比 = メインギヤ(出力側)のトルク

となる。

このリールの場合はギヤ比が 6.2 なので,ラインが出るときはスプールに発生したトルクが 6.2 倍に増幅されてメインギヤを回そうとする事が分かる。

以上の点から,以下のような事が分かる。

スプールに掛かっていたトルクを振り返ってみると

  • レアニウムCI4 2500S : 2kg × 44mm = 88 kg・mm
  • メタニウムXT : 2kg × 31mm = 62 kg・mm

となっていたのだが,ドラグ部分に掛かるトルクを計算してみると,

  • レアニウムCI4 2500S : 88 kg・mm のまま
  • メタニウムXT : 62 kg・mm × 6.2 = 384.4 kg・mm

となり,スピニングと比べるとドラグ部分のトルクは4倍以上になっている。

こういった点から,そもそもベイトの場合は,ラインが出て行かないようにブレーキを掛ける事自体がスピニングよりも大変な作業になるんじゃないかと思う。スピニングの場合はドラグの締め込みは緩めでもそこそこ効いてくれるが,ベイトの場合はガッチリ締め込んでおかないと滑りやすい事が多い。これはドラグに掛かるトルクの違いが大きいと思う。

ベイトリールのドラグの特徴まとめ

  • ドラグが少し滑っただけでスプールがたくさん回転してしまうので,ドラグの滑りに対するラインの放出量が,スピニングと比べるとかなり多い。
  • 上記理由により,スピニングと同等のペースでライン放出を行うためには,ドラグ部分がものすごく低速で,しかも滑らかに滑っていく構造にする必要がある。
  • 一般に止まっているときの摩擦力(静止摩擦力)よりも動いているときの摩擦力(動摩擦力)の方が小さいため,ドラグが滑り出してからのライン放出量が多いベイトリールの場合は「じわ~っ」と出ないで,滑り出したとたん一気にラインが出てしまう。
  • ドラグ部分に掛かるトルクは「スプールのトルク × ギヤ比」となるため,ギヤ比がハイギヤになるほどラインが引かれたときのドラグへの負担(ドラグ部分に掛かるトルク)が大きくなる。
  • ギヤ比によるトルクの増幅があるため,もともとスピニングよりもドラグの摩擦力がかなり大きくないと,滑りやすくなってしまう。
  • ドラグワッシャーはメインギヤに装着されるため,ワッシャーの面積を大きくする事も難しい(機種によってはワッシャーの数を増やして対応している)。
  • だからベイトはドラグのハンドルを結構キツく締め込まないとすぐに滑ってしまいやすいし,ドラグに塗る「ドラググリス」もスピニングと比べると粘度の高いものになっている。
  • ドラグワッシャーの潰れやメンテナンス不良があると,スピニングの場合は多少のごまかしが効くかもしれないが,ベイトの場合はドラグに掛かるトルクが大きいため,すぐにドラグが滑りやすくなってしまう。
  • 普段からドラグの締め付け荷重がキツいため,リールを使った後はドラグを緩めておかないと,スピニングよりもドラグワッシャーの潰れや固着を起こしやすい。
  • スプール部にドラグを付ければスピニングに近いフィーリングになってくると思うが,ベイトの場合はキャスティング時にスプールが高速回転しなければならず,ドラグを付ける事ができない。

他にもいろんな要素があると思うがベイトリールの場合はギヤ比の影響が大きいため,スピニングと同等のドラグの性能にするのは技術的に難しいのではないかと思う。

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